公文書に見る 日米交渉 〜開戦への経緯〜
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 ●「日本側最終案」(「乙案」)の変遷
 こちらでは、「日米交渉」の最終段階で日本側が提出した「乙案」の変遷を、アジア資料センター公開資料を通じてご紹介します。
資料1:別紙 乙案(十一月一日午後十時連絡会議ニ於テ外務省提案セルモノ)(『大本営政府連絡会議議事録 其の二』(杉山メモ)119画像〜120画像右)
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資料2:B02030721300 1 昭和16年10月1日から昭和16年11月4日(28画像〜31画像右)
「昭和16年11月4日東郷大臣発在米野村大使宛公電第七二七号(別電、大至急、館長符号)(原議)」
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資料3:B02030722000 8 昭和16年11月8日から昭和16年11月13日(30画像左〜31画像右)
「昭和16年11月13日東郷大臣発在米野村大使宛公電第七六八号日米交渉 乙案修正ノ件(館長符号)」
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資料4:B02030722200 10 昭和16年11月13日から昭和16年11月15日(1画像〜2画像右)
「昭和16年11月14日東郷大臣発在米野村大使宛公電第七七三号 米側ヘ提案(館長符号)(原議)」
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資料5:B02030733900 2 乙案(二)(2画像)
「乙案(二)(一部国家機密)」
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資料6:B02030733900 2 乙案(二)(3画像左〜4画像)
「乙案(二)(国家機密)」
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資料7:B02030734000 3 乙案(三)(2画像)
「乙案(三)(国家機密)」
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 資料1は、昭和16年(1941年)11月1日(1日9時〜2日1時30分)に行われた第66回大本営政府連絡会議において、外務省が提出したものです。
 その全文は、以下の通りです。

一 日米両国ハ孰レモ仏印以外ノ南東亜細亜及南太平洋地域ニ武力的進出ヲ行ハサルコトヲ確約ス
二 日米両国政府ハ蘭領印度ニ於テ其ノ必要トスル物資ノ獲得カ保障セラルル様相互ニ協力スルモノトス
三 米国ハ百万噸ノ航空揮発油ノ対日供給ヲ確約ス

備考
一 本取極成立セハ南部仏印駐屯中ノ日本軍ハ北部仏印ニ移駐スルノ用意アリ
二 尚必要ニ応シテハ従来ノ提案中ニアリタル通商無差別待遇ニ関スル規定及三国条約ノ解釈履行ニ関スル規定ヲ追加挿入スルモノトス

 資料2は、東郷外務大臣から野村駐アメリカ大使に11月4日に通知されたもので、資料1の第三項が削除され、新たな第三項と第四項が挿入されています。また、資料1の備考第一項にあった、「南部仏印」進出に駐留している日本軍を「北部仏印」へ撤退する、との記述から、「南部仏印」「北部仏印」の文字が削除され、ただ「日本軍隊ヲ撤兵」と変更されています。
 この公電中の「乙案」にあたる部分は以下の通りです。

(一)日米両国政府ハ孰レモ仏印以外ノ南東亜細亜及南太平洋地域ニ武力的進出ヲ行ハサルコトヲ確約ス
(二)日米両国政府ハ蘭領印度ニ於テ其必要トスル物資ノ獲得カ保障セラルル様相互ニ協力スルモノトスル
(三)日米両国政府ハ相互ニ通商関係ヲ資産凍結前ノ状態ニ復帰スヘシ
(四)米国政府ハ日支両国ノ和平ニ関スル努力ニ支障ヲ与フルカ如キ行動ニ出サルヘシ

(備考)
(一)本取極成立セハ日支間和平成立スルカ又ハ太平洋地域ニ於ケル公正ナル平和確立スル上ハ日本軍隊ヲ撤退スヘキ旨ヲ約束シ差支ナシ
(二)必要ニ応シテハ往電第七二六号甲案中ニ包含セラルル通商無差別待遇ニ関スル規定及三国条約ノ解釈及履行ニ関スル規定ヲ追加挿入スルモノトス尚本案を提出スル時期ニ付テハ予メ請訓アリタシ

 資料3は、11月4日に通知されたのに一部修正をくわえたもので、11月13日、東郷大臣から野村大使に発電されたものです。この段階で、再び、「仏領印度支那」の文字が加えられています。
 この公電中の「乙案」に関する部分は以下の通りです。

備考(一)ノ「必要ニ応ジ」ノ次ノ「本取極成立セバ」ヲ削除シ又「公正ナル平和確立スル上ハ」ノ次ニ「現ニ仏領印度支那ニ派遣セラレ居ル」

 資料4は、11月14日に東郷大臣から野村大使へ発電されたもので、「乙案」の最終版です。11月4日に通報された文中にある、(備考)を本文中に入れ、さらに11月13日の訂正を反映させ、また、日独伊三国同盟に関する事項を追加し、全7項目としたものです。
 この公電中の「乙案」に関する記述は以下の通りです。

一、二、三、四、ハ往電第七二七号ノ通リ
五、日本国政府ハ日支間和平成立スルカ又ハ太平洋地域ニ於ケル公正ナル平和確立スル上ハ現ニ仏領印度支那ニ派遣セラレ居ル日本軍隊ヲ撤退スヘキ旨ヲ約束ス
六、日本国政府ハ国際通商関係ニ於ケル無差別待遇ノ原則カ全世界ニ通用セラルヽモノナルニ於テハ太平洋全地域即支那ニ於テモ本原則ノ行ハルヽコトヲ確認ス
七、両国政府ハ世界平和ノ招来ヲ共同ノ目標トシテ適当ナル時期至ル時ハ相強力シテ世界平和ノ速ナル克服ニ努力スシ世界平和克服前ニ於ケル事態ノ諸発展ニ対シテハ日米両国政府ハ防護ト自衛トノ見地ヨリ行動スベク又米国ノ欧州戦参入ノ場合ニ於ケル日本国独逸国及伊太利国間三国条約ニ対スル日本国ノ解釈及之ニ伴フ義務履行ハ専ラ自主的ニ行ハルヘシ

 資料5は、11月4日東郷大臣から野村大使に通知されたものとタイプ浄書したものです。

 資料6は、資料2に資料3の訂正を加えたものと、資料4の中間にあたるものとみられ、「最終版」には含まれていない「(備考)」が存在しています。

 「(備考)」の内容は以下の通りです。

(備考)前記五、六、七、八最初ノ提案中ニハ包含セシメス必要ニ応シ之ヲ追加スヘキモノトス右ノ外更ニ必要ニ応シテハ「本取極成立セハ南部仏印駐屯中ノ日本軍ハ北部ニ移駐ノ用意アル」旨約束シ差支ナシ

 資料7は、11月14日に東郷大臣から野村大使へ通報されたものをタイプ浄書したもので、「乙案」の最終版です。
 全文は以下の通りです。

一、日米両国政府ハ孰レモ仏印以外ノ南東亜細亜及南太平洋地域ニ武力的進出ヲ行ハサルコトヲ確約ス
二、日米両国政府ハ蘭領印度ニ於テ其必要トスル物資ノ獲得カ保障セラルル様相互ニ強力スルモノトスル
三、日米両国政府ハ相互ニ通商関係ヲ資産凍結前ノ状態ニ復帰スヘシ米国政府ハ所要ノ石油対日供給ヲ約ス
四、米国政府ハ日支両国ノ和平ニ関スル努力ニ支障ヲ与フルカ如キ行動ニ出サルヘシ
五、日本国政府ハ日支間和平成立スルカ又ハ太平洋地域ニ於ケル公正ナル平和確立スル上ハ現ニ仏領印度支那ニ派遣レラレ居ル日本軍隊ヲ撤退スヘキ旨約束ス 日本国政府ハ本了解成立セハ現ニ南部仏領印度支那ニ駐屯中ノ日本軍ハ之ヲ北部仏領印度支那ニ移駐スルノ用意アルコトヲ闡明ス
六、日本国政府ハ無差別原則カ全世界ニ適用セラルルモノナルニ於テハ太平洋全地域即支那ニ於テモ本原則ノ行ハルルコトトヲ承認ス
七、世界平和克復前ニ於ケル事態ニ諸発展ニ対シテハ日米両国政府ハ防護ト自衛トノ見地ヨリ行動スヘク、又米国ノ欧州戦参入ノ場合ニ於ケル日本国独逸国及伊太利国間三国条約ニ対スル日本国ノ解釈及之ニ伴フ義務履行ハ専ラ自主的ニ行ハルヘシ

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